水の匂ひ2006/01/14

母が本を自費出版した。
新聞の歌壇に取り上げられたものを中心に選んだ作品集で
俳句と短歌、一編のエッセイを収録した。
表紙絵や挿絵、デザインは画家の兄が担当。
妹は校正校閲が本職なのでその分野を担当。
私は全体的なプランなどと相談役と言った感じで、
兄妹総出の協力のもと、なかなか素敵な本が出来上がった。

暮れに帰省したおり、出来立ての本を持った
母の写真を撮った。
母はいつも身だしなみ程度の化粧しかしないので
眉を整えきちんと口紅をひき、
よそ行き風に化粧してあげた。
服も赤いものを選び、少し誇らし気な
それで少し恥ずかし気な母は可愛いかった。

東京に戻ってデジカメデータをMacに取り込む。
こんなふうに母を撮った事はなかったかもしれない。
真っ正面にこんな長いこと母の写真を見た事も。
映画「ブレードランナー」の中で、
写真をどんどん拡大して行くシーンがあって
未来にはこんな事出来るようになるのかなあ、と思ったが、
もう既にその「未来」だ。
母の瞳をどんどん拡大していった。
何の形も認められなかった瞳のなか
徐々にカメラを構えた私のシルエットが浮かび上がった。
明るい窓を背景にしてくっきりと。
このひとのなかで育った、その目に。
私の目はいまそれを映してる。
すこし泣きそうになった。

デジタルに涙ぐまされる事ってあるんだ・・。

本のタイトルは「水の匂ひ」。