除染のようす〜郡山の場合2014/05/15

「いちから聞きたい放射線のほんとう いま知っておきたい22の話」(筑摩書房)に、私の実家の除染の様子を書きました。
案外、民家の除染の様子は知られていないようですので、本の紹介も兼ねて、写真とちょっとコメントなど加えてご紹介します

(私と物理学者・菊池誠さんの会話で話は進みます)
「いちから聞きたい放射線のほんとう いま知っておきたい22の話」
第二部
9 除染してわかったこと より

 
小峰:私の実家は市内でも放射線量が高い地域で、除染前は年間10ミリシーベルトくらいと言われてました。気になって家の中や庭の放射線量をこれまでに4回測って、そのうち除染前と後の2回の数字を見取り図に書きました


小峰家見取り図
                  (作画:小峰公子)

菊池:空間線量率の測定って、それなりにちゃんとやろうと思うと結構大変だよね

小峰:毎回同じシンチレーションカウンターを使って測りました。それで、実際に測ってみるとわかるのですが、同じ場所で続けて測っても数値にばらつきがでるんです

菊池:カウンターにはいってくるγ線の数はその時によって違うから

小峰:それで、30秒間測るのを5回繰り返して、その平均値をだしました

菊池:見取り図に載せたのはその平均値だね

小峰:実は30ヵ所も測っていて、それだけ測ると2時間ちょっとかかりました
空間線量率@実家

菊池:それはひと仕事だ。除染は郡山市がしてくれたんだね

小峰:はい。2013年6月に4日間かけて。事故から2年以上たってるけど、それでも郡山の中では早いほうでした。市内を線量で区分けして、高い地域から除染しています。雨樋の下に超ホットスポットがあるのは、除染のときにわかりました

菊池:それまでは気がつかなかったの?

小峰:実はその雨樋の近くの部屋だけ数値が高かったのだけど、どうしてなのかわからなかったんです。雨樋の下の溝が土で埋まってしまってたので、目が行かなかったんだと思うんですよ。その辺りの表面はなんと7マイクロシーベルト毎時超えでした。高さ1メートルでも1マイクロシーベルト毎時以上ありました

  *あまりのことにピントがボケています

菊池:建物の構造のせいで放射性セシウムが溜まりやすい場所ってあるよね。除染って具体的にはなにをしたの?

小峰:自治体によって違うらしいですが、郡山市の場合、まずは常緑樹の刈り込みや、枝落としをして、植物についた放射性物質を取る。屋根と壁は何もしませんでした。メインは庭の表土を剥いで、新たな土を入れること、あとはコンクリートのタタキなどの洗浄です

郡山市の民家の除染
  *庭木の間などは手作業で、広い面は重機で土を剥いでいきます

菊池:剥いだ土はどうしたの?

小峰:1立方メートルくらいの袋にどんどん入れていって、庭に5×4メートルの穴を掘って、埋めたんです。ざっと16袋。保管する場所が決まるまでの当面の措置ということで…

郡山市の民家の除染



菊池:巨大な穴を掘ったんだ

郡山市の民家の除染


小峰:はい。重機でどおーんと穴を掘って、剥いだ土の入った袋をそこにだあっと並べて、上から土をかけて

郡山市の民家の除染


郡山市の民家の除染



小峰:掘ったところはわかるように目印の杭が打ってあります

郡山市の民家の除染


小峰:剥いだ土は、庭に置いておくか地中に埋めるかの二択なんですけど、どっちの保管方法にするかは、除染の担当者と相談して決めました。埋めるほうを選ぶ家庭が多いみたい

菊池:剥いだあとはどうしたの?

小峰:できるだけ元に近い形にしてくれます。土だったところは山砂を敷き詰めて、砂利だったところには砂利を入れてくれました。砂利も3種類から選べました

菊池:土をかぶせれば、さらに遮蔽されて、放射線量も下がるね。屋根や壁はどうしてやらなかったの?

小峰:福島市ではやってたところもあったようだけど、郡山市ではやりませんでした。モデル除染地区で屋根や壁を洗ってもあまり効果がなかったということです。屋根の表面の線量がわずかに下がりはしても、その下の部屋の数値は変わらなかったって。もっと早い段階なら効果があったと思うんですけど、台風がいくつも来たり、大雨が降ったりしてますから

菊池:なるほどね。台風より強力な洗浄機はなかなかないか

小峰:はい。それでね、庭の土は、空間線量率を見ながら5センチくらいまで剥ぐことになってたんです

菊池:それより少なくても効果があるとしたら、処理する土も少なくて済むからね

小峰:そうなんですよね、埋める穴も小さくて済むし。私は除染中も空間線量率をシンチレーションカウンターで計測しまくっていました。で、5センチ剥いでも下がらないところがあったんです。それで業者さんに「あと1センチ削ってみてください」ってお願いしたら、
「じゃあ試しにちょっと」という感じで剥いでくれて。そしたらぐっと下がったんです。そこは粘土質のところでした

菊池:1センチ余計に剥ぐだけで大きく変わったりする場所もあるわけか。一律にとはいかないんだな

小峰:そうなんですね、ちょうど「表面汚染密度」を測る機器を持った方が計測に来てたので、「ここは高いな」って一緒に調べてくれて。作業してる方たちも「おーっ、下がった下がった」と効果を目の当たりにできて盛り上がりました

菊池:その場で効果がわかるのはいいね。

小峰:はい、庭でかなり数値が高かった場所のひとつはコケが生えているところで、除染前は1マイクロシーベルト毎時以上もありました。でもそのコケにセシウムがくっついてたみたいでコケを取っただけで、すごく下がりました。除染2カ月後の測定では0.17マイクロシーベルト毎時でした

菊池:それはずいぶん効果があったね

小峰:あと、コンクリートのたたきはでっかいブラシが回転するみたいな洗浄機で洗うんだけど、洗った水はどうするのかなと思ったら、使った水を端から吸引していくんですよ。せっかく除染した庭に汚染水が漏れ出ないように

郡山市の民家の除染


菊池:歯医者さんで歯を削るときの、水をかけながら吸い取るみたいな?

小峰:そうそう、あの方式です。大きな水のタンクを積んだトラックが来ました。そういう汚染水や、除染後の土をどうするかという問題はまだまだこれからですね。まわりの除染も進んで、今はこの測定値よりさらに下がっています。これからも定期的に測定は続けたいと思ってます

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山野の除染の問題は難しいですが、住宅地の除染は確実に効果を上げていると思います。