木村佳代子さんの絵について2015/07/13

木村佳代子 ”BIRTH”
今回のzabadakのアルバムのジャケットのアートワーク、
木村佳代子さんの絵について

私の兄は画家です。zabadakでは二度、兄の作品をジャケットにしていますので、ご存知のかたもいらっしゃるでしょう。兄の友人たちの個展に足を運んだりして、銀座のギャラリー巡りはよくしていました。今もギャラリーを見かけて、気になる作品がかかっていると、ひょい、と入ったりします。

一昨年、銀座の画廊で、6人くらいの現代美術家のグループ展に兄が参加していて、一緒に参加されていた作家の中に木村佳代子さんがいらっしゃいました。その時は、木村さんは芍薬を描いた3点を出品されていました。美しく開いた芍薬に落とされた(あるいは汚された)墨のイメージに、私達が震災で負わされた傷を重ねて見た人もいたでしょう。私はその作品をずっと眺めていたくなって購入しました。若いアーティストのいろいろな展覧会を見ていますが、「欲しい」とまで思ったのは珍しいことで、ちょっと自分でもびっくりしました。
そのあとすぐ、麻布の画廊で初めて個展を拝見した時のことは忘れられません。
その花の最も美しい瞬間が彼女によって無惨なほどに細密精緻に切りとられています。タナトスとエロスに叩きつけられる静かなる偏執的パッションにクラクラしてきます。本来の「器官」であることを時にエロティックすぎるほどに描き、しかし「切り取られた器官」であることが苦しいほど胸に迫り…彼女の絵を見た私の息子が「おっかない」と言ったのもよくわかるのです。彼女の絵を見ると、いつも「境界」ということばが浮かびます。自分がその脆い花弁の縁に立ち、どこにも行けない場所に置き去りにされたような錯覚に陥ります。

花弁と外の世界を頒かつもの。
私達の身体と外の世界を頒かつもの。
生きているもの、死にゆくもの、生きながらに失われてゆくものについて。

わたしはいつも彼女の描く花弁のふちからから生命の淵をのぞきこむのです、と以前彼女の絵にコメントしたのですが、まさにその感覚です。

今回のzabadak「ここが奈落なら、きみは天使」のアルバムのコンセプトは「境界」でした。にじむ境界、拒絶する境界、小さくつなぐ扉、美しく引かれた境界、曖昧な時間と記憶の境界…

ジャケットはどうしよう、と話している時に、吉良君がFacebookで木村さんの過去の作品を見つけました。木村さんの作品とはいつかコラボレーションしたいと思っていましたが、ぴったりくる作品に出会えました。ジャケットに使わせていただくことを快諾してくださり、全面的に木村さんの作品でブックレットを作りました。デザインは、ずっとzabadakのジャケットデザインをしてくださっている吉田直之さんです。

ぜひ、ジャケットで木村佳代子さんの世界の一端を御覧ください。そして8月3日から8日まで、銀座のギャラリーQで木村佳代子さんの個展があります。私も実はまだ見ていない、アルバムジャケットの原画も展示されます。とても楽しみにしています。お近くの方は、ぜひ足をお運びください。

木村佳代子さんのHPはこちら
http://www.kayokokimura.com
*トップ画像のチューリップの作品"BIRTH"はアルバムジャケットではありませんが、個展で展示されます。100号もの大作!